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東京高等裁判所 平成11年(行コ)96号 判決

控訴人

藤田和男

控訴人

藤田冨士夫

控訴人

上田瀧子

右三名訴訟代理人弁護士

中村鉄五郎

岡本芙希

被控訴人

川崎北税務署長 鈴木毅

右指定代理人

熊谷明彦

小山博実

屋敷一男

松本好正

口頭弁論終結日

平成一二年二月一日

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  控訴人らの被相続人藤田ミヨ(以下「藤田ミヨ」という。)に係る控訴人らの相続税について被控訴人がした次の処分を取り消す。

(一) 平成七年五月三一日付け相続税更正処分(以下「本件更正処分」という。ただし、控訴人藤田和男については修正申告時における「申告期限までに納付すべき税額」、その余の控訴人らについては修正申告時における「納付すべき税額」を、各超える金額)及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 平成七年一一月二八日付け相続税再更正処分(以下「本件再更正処分」という。ただし、(一)の括弧内の額を各超える部分)及び過少申告加算税の賦課決定処分

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二事案の概要

基礎となる事実、当事者双方の主張、本件の争点など事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人らの当審における主張

1  控訴人藤田和男の本件訴えは適法である。

同控訴人は、本件訴えにより、平成三年法律第一六号(以下「改正法」という。)附則一九条四項の適用又は類推適用により、本件農地の相続について、改正法による改正後の租税特別措置法(以下「新法」という。)七〇条の六所定の相続税の納税猶予及び免除の特例(以下「本件特例」という。)が適用されるべきであるにもかかわらず、その適用がないとした本件更正処分及び本件再更正処分並びに右各処分に伴う各過少申告加算税賦課決定処分により財産上の損失を受けているので、その取消しを求める法律上の利益を有する。

そのうえ、税務訴訟は、税額の過ちを是正するのみでなく、更正処分の違法性を是正し、納税者の権利救済に資する制度であるので、訴えの利益の存否は、経済的損失の有無、他の権利救済の可能性、課税の違法性等から実質的に判断すべきである。

また、控訴人藤田冨士夫、同上田瀧子の訴えとの関係で右の規定の適用の有無が判断されるとしても、これが控訴人藤田和男の訴えを不適法とする理由にはならない。

2  原判決別紙1物件目録記載の農地(以下「本件農地」という。)の相続についても改正法附則一九条四項の適用又は類推適用により、新法七〇条の六の規定が適用されるべきである。

平成三年の税制改正は、農地として適切でないものについては宅地並の課税をすることで宅地として放出させ地価を引き下げるとともに、緑地を確保するため一定の農地を税制上優遇し、その利用を制限するものであったのであるから、本件農地のように、代々農業を営んでいた控訴人藤田和男により相続され、生産緑地地区の指定を受けた農地については、本件特例の適用が認められるべきである。

また、改正法附則一九条四項が平成四年度の生産緑地地区指定申請者を他の者より優遇して新法七〇条の六の規定の適用を認めた理由は、生産緑地地区に指定されると強度の財産権の制約を受けることにあり、また、右税制改正に伴う平成四年度における生産緑地地区の指定が同年末までにされることが予定されていたからである。

したがって、控訴人藤田和男は、平成五年度に本件農地について生産緑地地区の指定を受けたとはいえ、これによる土地の利用拘束は、平成四年にこれを受けた者と何ら違いはないのであるから、同控訴人について、新法七〇条の六が適用されないとすれば、憲法二九条、一四条に違反することになるので、改正法附則一九条四項を適用又は類推適用して、新法七〇条の六の規定を適用すべきである。

3  本件再更正処分における本件農地の価格の評価は、市街化区域内の農地ではなく、本件特例の適用のある生産緑地地区内の農地として評価すべきであるのに、相続開始時に生産緑地としての指定を受けていないことを理由にこのような評価をしなかった原判決の判断は誤りである。

4  農地は、生産緑地地区が指定告示された日から生産緑地地区内の農地となるのではなく、生産緑地地区に適合していることが指定告示により確認されたため生産緑地地区内の農地として法律的に処理されるにすぎないものというべきである。

したがって、生産緑地地区に適合していることが指定告示により確認された農地については、生産緑地地区指定の申込時から生産緑地地区内の農地として法的に取り扱われるべきであり、生産緑地地区の指定申込後、指定告示前に申込者が死亡して相続が開始した場合であっても、その後右指定告示がなされたときは、生産緑地地区の農地の相続として新法七〇条の六の規定が適用されるべきであって、改正附則一九条四項の規定もこの当然の内容を定めた確認規定にすぎず、右解釈の妨げとはならない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの訴えのうち、控訴人藤田和男の訴え並びに同藤田冨士夫及び同上田瀧子の訴えのうち本件更正処分の取消しを求める部分は不適法であり、控訴人藤田冨士夫及び同上田瀧子の訴えのうち平成七年五月三一日付け過少申告加算税の賦課決定処分、本件再更正処分及び平成七年一一月二八日付け過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄記載のとおりであるので、これを引用する。

1  原判決の訂正

(一) 原判決二四頁九行目の「「申告期限までに納付すべき税額」は」から二五頁三行目末尾までを次のように訂正する。

「更正処分は、納税申告に係る課税標準等又は税額等を変更する処分であって(国税通則法二四条)、申告期限までに納付すべき税額を変更する処分ではない上、更正処分を取り消し、更正処分に係る税額を変更したとしても、法律上当然に本件特例が適用され申告期限までに納付すべき税額が減額するという関係にもないのであるから、更正処分により変更された税額により不利益を受けていない控訴人藤田和男が、申告期限までに納付すべき税額が増額したとして本件更正処分等の取消しを求める法律上の利益があると解することはできない。」

(二) 同二七頁一二行目の「なお」から二八頁二行目末尾までを削除する。

(三) 同四一頁の一〇行目から一一行目の「参考として差し支えないとの国税庁職員の解説があり(乙二)」を「参考としても差し支えないと解すべきであり」と改める。

(四) 同四三頁六行目末尾の次に行を改めて次のように加える。

「(四) 甲第二七号証(武田昌輔作成の意見書)中には、本件農地は、昭和二八年以来現在に至るまで農地として使用されていること、本件農地につき藤田ミヨが平成五年六月二五日付けで川崎市長に対し川崎都市計画生産緑地地区指定申出書を提出し、控訴人らがこれを相続取得した約一か月後である同年一二月二四日川崎市により生産緑地地区に追加指定された旨が告示され、生産緑地地区内の農地となったこと、控訴人藤田和男が相続しても、譲渡困難であり、譲渡できるとしても農地として譲渡しなければならないことなどから、生産緑地地区内の農地として評価すべき旨が記載されている。

しかし、相続税法二二条は、相続等により取得した財産の価格は、特別の定めのあるものを除き「当該財産の取得の時における時価により」評価すべき旨を定めているのであるから、川崎市により生産緑地地区の追加指定が告示され、本件農地が生産緑地地区内の農地になったとしても、これが相続による取得後に生じた事由である以上、右事由を考慮して、本件農地の価格を生産緑地地区内にある農地として評価することは許されないものというべきである。」

2  控訴人らの当審における主張に対する判断

(一) 控訴人らは、生産緑地地区に適合していることが指定告示により確認された農地については、生産緑地地区指定の申込時から生産緑地地区内の農地として法的に取り扱われるべきであり、生産緑地地区の指定申込後、指定告示前に申込者が死亡して相続が開始した場合であっても、その後右指定告示がなされたときは、生産緑地地区の農地の相続として新法七〇条の六の規定が適用されるべきであって、改正附則一九条四項の規定もこの当然の内容を定めた確認規定にすぎず、右解釈の妨げとはならない旨主張するようである。

(二) しかし、本件農地は、都市営農農地等に該当しない限り、新法七〇条の四第二項所定の「特定市街化区域農地等」に該当することになるのであるから、控訴人らが相続によりこれを取得した時において都市営農農地等に該当しない場合には、新法七〇条の六所定の「農地」を相続により取得した場合に該当せず、右規定が適用されないことは、その文理上明らかである。

そして、このような解釈が正当であることは、改正法附則一九条四項が、新法七〇条の六の規定が適用されるためには、相続または遺贈により取得した時において特定市街化区域農地等に該当する農地が都市計画の決定又は変更により都市営農農地等となっていることを要することを原則とした上、平成四年一月一日から同年一二月三一日までに取得した財産のうち同日までに「都市計画の決定又は変更により」都市営農農地等に該当することとなった場合として政令で認める場合に限り、例外として、当該農地が「取得の時において」都市営農農地等に「該当するものとみなして」、右の規定を適用する旨を定めていることからも明らかである。

したがって、控訴人らの右主張は、前記の各規定と整合しないことが明らかであり、採用することはできない。

また、甲第二八号証中には、藤田ミヨが平成四年度に本件農地の生産緑地地区指定の申出書を川崎市長に提出できなかったのは、生産緑地地区内の農地とされた場合の利用制限の厳しさに対して考慮する時間を要したためであるので、この点からも本件農地について新法七〇条の六の規定の適用を認めるべきであるかのような記載があるが、乙第八号証、第九号証の一、二によれば、控訴人藤田和男は、平成元年二月一二日に死亡した父藤田俊治から相続取得した農地については、改正前の租税特別措置法七〇条の六の適用を受けていた農地のうちの数筆について平成四年二月一九日付け「川崎都市計画生産緑地地区指定申出書」を提出しているのであるから、藤田ミヨが平成四年中に生産緑地地区指定の申立てをすることができなかったとは認めるに足りない。

二  以上によれば、控訴人らの訴えのうち、控訴人藤田和男の訴え並びに同藤田冨士夫及び同上田瀧子の訴えのうち本件更正処分の取消しを求める部分は不適法であるのでこれを却下すべきであり、控訴人藤田冨士夫及び同上田瀧子の訴えのうち平成七年五月三一日付け過少申告加算税の賦課決定処分、本件再更正処分及び平成七年一一月二八日付け過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分はいずれも理由がないので、これを棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であるので、本件控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六五条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 一宮和夫 裁判官 大竹たかし)

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